談話
桃太郎の話(1)
沖縄首里
本談話について
首里汀良町の真栄平房敬(まえひら ぼうけい)氏による「桃太郎」の首里語訳。3分26秒。
真栄平房敬 |
わんねー すいぬ てぃしらじぬ めーでーらぬ さんなん たるみがにー でーびる. waNne: suinu tisirazinu me:de:ranu saNnaN tarumigani: de:biru. 「私は首里の汀良町の真栄平の三男タルミガニー(樽御金)です。」 |
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真栄平房敬 |
ちゅー ぬんじゅなーんかい やまとぅぬ ももたろーぬ ‘うふぁなし ぬんぬきやびーん. tʃuː nuɴʒunaːŋkai jamatunu momotaroːnu ʔuhwanaʃi nunnukijabiːɴ. 「今日あなた様にやまとの桃太郎のお話を申し上げます。」 注1 nuɴʑuna: nuɴʑuɴ=mjuɴʑuは二人称の貴族に対する敬語。-na:をつけると二人称の複数形であるが、相手が一人の場合でも慣習的に複数形を使うことがしばしばある。 |
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真栄平房敬 |
ももたろーんでぃ ‘いしぇー ‘うなでーびる. momotaroːndi ʔiʃeː ʔunadeːbiru. 「桃太郎というのはお名前です。」 |
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真栄平房敬 |
‘うちなーぬ すいぬ ‘うなんかい のーしーねーでーびる. ʔutʃinaːnu suinu ʔunaŋkai noːʃiːneːdeːbiru. 「沖縄の首里のお名前になおしたらですね、」 |
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真栄平房敬 |
まむむ まむむたるがにでぃ ‘いる ‘うなんかい ‘あたいえーさにんでぃ ‘うむとーやびーん. mamumu mamumutaruganidi ʔiru ʔunaŋkai ʔataieːsanindi ʔumutoːjabiːɴ. 「真桃...真桃樽御金というお名前にあたるだろうと思っております。」 注2 mamumutarugani: ma-は士族以上の男女の童名につける美称の接頭辞。-ganiは男性の名につける美称接尾辞。貴族などの男の名の美称となる。mumutaru:《桃太郎》に接頭辞ma-と接尾辞-ganiがついた形。例:mautugani《真金》 |
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真栄平房敬 |
なまから ぬんぬきやびーん. namakara nunnukijabiːɴ. 「今から申し上げます。」 |
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真栄平房敬 |
んかし ‘あるとぅくるんかい ‘うふじゅんじゃなしーめー はんじゃなしーめーぬ ‘うたとぅくるぬ ‘うとぅすいぬ ‘うちぇーんせーびーたしがでーびる. mkaʃi ʔarutukuruŋkai ʔuhuʒuɴʒanaʃiːmeː haɴʒanaʃiːmeːnu ʔutatukurunu ʔutusuinu ʔutʃeːɴseːbiːtaʃigadeːbiru. 「昔あるところにおじいさんおばあさんのお二人方のおとしよりがいらっしゃいましたが。」 |
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真栄平房敬 |
‘あるとぅち はんじゃなしーめーが ‘うふじゅんじゃなしーめーんかい ぬんぬきーる ‘うくとぅにでーびる. ʔarututʃi haɴʒanaʃiːmeːga ʔuhuʒuɴʒanaʃiːmeːŋkai nunnukiːru ʔukutunideːbiru. 「ある時おばあさんがおじいさんに申し上げました。」 |
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真栄平房敬 |
まし‘うちに ういびーれーでーびる くくてぃるさ ‘あいびーれーでーびる ぐふよーみしぇーる ‘うばすに ぬんすじゅち ‘うまじゅん うがまち ‘うたびんせーびりんでぃ ぬんぬきてぃ さびたくとぅでーびる. maʃiʔutʃini ʼuibiːreːdeːbiru kukutirusa ʔaibiːreːdeːbiru guhujoːmiʃeːru ʔubasuni nuɴsuʒutʃi ʔumaʒuɴ ʼugamatʃi ʔutabiɴseːbirindi nunnukiti sabitakutudeːbiru. 「籬内(御殿の内)にいらっしゃるのでお寂しくていらっしゃるのでお散歩なさる時にお供を御一緒にさせて下さいと申し上げました。」 |
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真栄平房敬 |
‘うふじゅんじゃなしーめーん ‘うやたしゃんち みしょーちでーびる. ʔuhuʒuɴʒanaʃiːmeːɴ ʔujataʃantʃi miʃoːtʃideːbiru. 「おじいさんもよいとおっしゃいました。」 |
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真栄平房敬 |
‘ある ‘うとぅちに ‘うたとぅくる ‘うんじんしょーち ぬーやま ぬんかきーが ‘うちぇーんしょーち さびたくとぅでーびる. ʔaru ʔututʃini ʔutatukuru ʔuɴʒiɴʃoːtʃi nuːjama nuŋkakiːga ʔutʃeːɴʃoːtʃi sabitakutudeːbiru. 「ある時にお二人方お出かけなさって野山を御覧にいらっしゃいました。」 |
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真栄平房敬 |
だてーんぬ ぬーぬ すばんかい かーらぬ ながりてぃでーびる. dateːnnu nuːnu subaŋkai kaːranu nagaritideːbiru. 「大きな(広い)野原の側(わき)に川が流れていました。」 |
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真栄平房敬 |
‘うぬ ‘うびーぬ ‘うちゅらしゃ ぬんかきみしょーちでーびる. ʔunu ʔubiːnu ʔutʃuraʃa nuŋkakimiʃoːtʃideːbiru. 「その水のきれいさをご覧になっていました。」 |
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真栄平房敬 |
はんじゃなしーめーが んち ‘うし… かーらんかい ‘うーりんしょーち さびたくとぅでーびる. haɴʒanaʃiːmeːga ʼntʃi ʔuʃimuʃiɴseːntʃi kaːraŋkai ʔuːriɴʃoːtʃi sabitakutudeːbiru. 「おばあさんがお手をお洗いになろうと川にお降りになりました。」 |
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真栄平房敬 |
かーらぬ ‘うぃーかたから だてーんぬ ‘うむむぬ ゆったい くゎったい ながりてぃっち さびたくとぅでーびる. kaːranu ʔwiːkatakara dateːnnu ʔumumunu juttai kwattai nagaritittʃi sabitakutudeːbiru. 「川の上の方から大きな桃がドンブリコと流れてきて参りました。」 注3 juttaikwattai: 擬声語。① 桶・池・容器などの中で液体が揺れ動いて音を発するさま。② 物体がゆるやかに波にもまれて、波とぶつかって音を発するさま。 |
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真栄平房敬 |
‘うり ぬんかきてぃ みじらさぬ みじらさぬ ‘うむむとぅ ぬんかきみしょーち ‘うとぅんしょーち ʔuri nuŋkakiti miʒirasanu miʒirasanu ʔumumutu nuŋkakimiʃoːtʃi ʔutuɴʃoːtʃi 「それをご覧になって珍らしい、珍しい桃とご覧になってお取りになって」 |
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真栄平房敬 |
‘うまじゅんさーに ‘わーがんしぇーんち ‘うどぅぬんかい ‘うむちんしょーち ‘うちぇーんそーち さびたくとぅでーびる. ʔumaʒuɴsaːni ʔwaːgaɴʃeːntʃi ʔudunuŋkai ʔumutʃiɴʃoːtʃi ʔutʃeːɴsoːtʃi sabitakutudeːbiru. 「ご一緒におあがりになるとて御殿にお持ちになってお帰りになりました。」 |
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真栄平房敬 |
‘うぬ ‘うーむむぬ ‘うたーちんかい わりてぃでーびる. なーかから ʔunu ʔuumumunu ʔutaːtʃiŋkai waritideːbiru. naːkakara 「その桃が二つに割れました。中から」 |
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真栄平房敬 |
めーうぃきがぬ ‘あか ‘うみんぐゎぬ ‘うまりんしょーち しゃびたくとぅでーびる. meːwikiganu ʔaka ʔumiŋgwanu ʔumariɴʃoːtʃi ʃabitakutudeːbiru. 「男の赤ちゃんがお生まれになりました。」 |
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真栄平房敬 |
‘うたとぅくる ‘いっぺー ‘うぶくんじゃなしーみしょーち. ʔutatukuru ʔippeː ʔubukuɴʒanaʃiːmiʃoːtʃi. 「お二人方は大層お喜びになりました。」 |
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真栄平房敬 |
くぬ ‘あか‘うみんぐゎー ‘うてぃんから さじゃかとーる ‘うみんぐゎ ぬんかきてぃ kunu ʔakaʔumiŋgwaː ʔutiŋkara saʒakatoːru ʔumiŋgwa nuŋkakiti 「この赤ちゃんは天からさずかった児と思われて、ご覧になって、」 |
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真栄平房敬 |
ぬんじゅなーぬ ‘うみんぐゎとぅ ‘うしょーじんしょーち ‘うすだてぃんそーち さびたくとぅでーびる. nuɴʒunaːnu ʔumiŋgwatu ʔuʃoːʒiɴʃoːtʃi ʔusudatiɴsoːtʃi sabitakutudeːbiru. 「ご自分達のお子とお考えになってお育てになりました。」 注4 nuɴʑuna: ① 注1 に同じ。② 御自分たちの。 |
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真栄平房敬 |
くぬ ‘あか ‘うみんぐゎー ‘うむむから ‘うんまりみそーちゃくとぅ ももたろーんでぃる ‘うな ‘うちきんそーちでーびる. kunu ʔaka ʔumiŋgwaː ʔumumukara ʔuɴmarimisoːtʃakutu momotaroːndiru ʔuna ʔutʃikiɴsoːtʃideːbiru. 「この赤ちゃんは桃からお生まれになったので桃太郎というお名前をおつけになりました。」 |
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真栄平房敬 |
ももたろーや ‘うすだちじゅらさ うがまってぃでーびる. momotaroːja ʔusudatʃiʒurasa ʼugamattideːbiru. 「桃太郎は立派に成長しました。」 注5 ʔusudaʨiʑurasa: 育ちが美わしい。立派に生長していること。sudatiʑurasa。 |
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真栄平房敬 |
にんまさい ちちまさい みふどぅ ‘うぃーてぃ さびたくとぅでーびる. niɴmasai tʃitʃimasai mihudu ʔwiːti sabitakutudeːbiru. 「年々歳々成長していきました。」 |
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真栄平房敬 |
‘うたとぅくるん にんまさい ちちまさい ‘うぶくんじゃなしー みしょーちゃんでぃぬ ‘うくとぅでーびる. ʔutatukuruɴ niɴmasai tʃitʃimasai ʔubukuɴʒanaʃiː miʃoːtʃandinu ʔukutudeːbiru. 「お二人方も年々歳々幸福になられたとのことでございます。」 |
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